ナルデンタルラボは当初より多くの症例のデンチャー製作をお受けしてきました。デンチャー製作についてのこれまでの数多くの経験から考え方や工程について以下にまとめてみました。

デンチャー(義歯)の製作

単に歯の形を再現するだけでなく、患者様の口腔内という非常に繊細で動的な環境に適合させ、食事や会話といった日常機能を取り戻すための精密な医療装置を作る、極めて専門性の高い作業です。その難しさは、製作の各工程に存在します。

◆正確な口腔内情報の再現の難しさ

デンチャー製作の全ての基本となるのが、患者様の口腔内の型(印象)です。しかし、口腔内は硬い歯槽骨の上に柔らかい粘膜が覆っているため、以下の点が非常に難しくなります。

粘膜の変形: 印象材を乗せる圧力や、患者様の唾液の量、舌や頬の動きによって粘膜は容易に変形します。この変形をいかに少なく、機能している状態に近い形で型を取るかが、フィット感を左右する最初の関門です。
基準点の喪失(特に総義歯): ご自身の歯が1本も残っていない総義歯の場合、噛み合わせの高さや顎の位置を決める基準が失われています。患者様にとって最も快適で機能的な噛み合わせの位置を、歯科医師と歯科技工士が協力して見つけ出し、再現するのは非常に困難な作業です。

◆機能と審美の両立の難しさ

デンチャーは「噛む」という機能だけでなく、「見た目」という審美的な要素も非常に重要です。

人工歯の排列: 人工歯を並べる作業は、単に歯を並べるだけではありません。
機能面: 噛んだ時にデンチャーが傾いたり外れたりしないよう、力学的に安定した位置に排列する必要があります。また、正しい発音ができるかどうかも考慮しなければなりません。
審美面: 患者様の顔の形、年齢、性別、ご希望に合わせて、自然に見えるように歯の色や形、並び方を決定します。口元の審美性は、その人の表情や印象を大きく左右するため、芸術的なセンスも要求されます。

◆材料の物理的制約と精密な調整

デンチャーの主な材料であるレジン(樹脂)は、製作過程で必ず「重合収縮」という変形を起こします。

変形のコントロール: この収縮をいかに最小限に抑え、設計通りの精密な形態に仕上げるかが、歯科技工士の腕の見せ所です。わずかな変形が、装着時の痛みや不適合に直結します。
ミクロン単位の調整: 完成したデンチャーを患者様の口腔内に装着し、最終的な調整を行います。粘膜に強く当たって痛みが出る部分を、ミクロン単位で削って調整していきます。削りすぎれば適合が悪くなり、削らなければ痛みで使えません。この絶妙な調整は、豊富な知識と経験が不可欠です。

◆歯科医師と歯科技工士の連携

精度の高いデンチャーを製作するためには、患者様の口腔内を直接診察する歯科医師と、実際にデンチャーを製作する歯科技工士との緊密な連携が欠かせません。歯科医師が収集した口腔内の情報(印象や噛み合わせの記録など)を、歯科技工士がいかに正確に理解し、形にしていくかが成功の鍵を握ります。情報の伝達に少しでも齟齬があれば、適合の良いデンチャーは作れません。

◆国内各地の歯科医院様がご依頼しやすくなっています

歯科医師と歯科技工士のインターネット連携は、写真やテキスト、動画を駆使することで、時間と距離の制約を超え、より迅速で正確なコミュニケーションを実現します。これにより、手戻りの削減や技工物の品質向上が期待できます。「触覚など伝わらない情報がある」という限界を認識した上で、それを補うための質の高い情報(鮮明な写真、具体的な指示)を提供し合うこと、そして情報セキュリティを確保した適切なツールを選択し、歯科医院様との強力な連携を心がけています。

まとめ

デンチャー製作は、医学・歯学的な知識、材料理工学的な理解、審美的なセンス、そして精密な加工技術という、多岐にわたる専門性が融合して初めて成り立つ、非常に難易度の高いプロセスです。近年では、CAD/CAMなどのデジタル技術の導入も進んでいますが、最終的な微調整や患者様一人ひとりの感覚に合わせる工程では、熟練した専門家の技術と経験が依然として不可欠となっています。